おとり化粧室


川のせせらぎみたく、周りと同化していた廊下に溶け込む囁きたちは、

掃除の時間にホウキと丸めた紙で始まる野球ばりに、楽しそうに主張してるんだけど、

声の主は、女子高生やってるから気づかない。

冷たかった床も人肌へ、とある二人に青春を与えてる。



  ……!、あ

君はふと我に返る。

小規模に気性が荒い玲ちゃんへ、ここまで毒舌ぶちまけて大丈夫なのかと不安になってしまった。


今は澪碧嶺だけど前はひゅったんで、その前は雨季で、

別にイジメてる訳じゃないけどイジられ率っていうのかな、

気分屋な玲ちゃんは、

『黒髪似合ってないから』
『あれファンデ死人だよ』
『皆に嫌われてるらしくー』

的な、小声で野次を飛ばす対象がしょっちゅう変わる要注意人物って、

数ヵ月親友してきて分かってたのに、迂闊だったと焦る。


玲ちゃんがいつ癇癪を起こし、
『君チャンって性格悪いらしくて〜! なんか澪碧嶺ん悪口大会してきて〜玲ショックだよー悲しい……』って、

自分の罪は帳消して、君に爆弾落とされることか。



まだ高校一年生、皆は清い。


敵は身内に潜んでる。
子供向けワクワク冒険物語の旅立ち第一話あたりで母親の形見の何かしらを持つばかりに、

ピンチに見舞われた推定九歳の少年・主人公を助けてくれて以来、

共に行動し高め合い、時には喧嘩し笑い合う、そんな十三歳程の美少年・剣豪が、

実は形見を奪おうと刺客を送り込んできてた黒幕だった的なオチと同じく、

まあ、それが死んだはずの兄ならなお良いんだけど、


彼氏の浮気相手が恋を励ましてくれてた部活の先輩だったり、

商品開発の大事なデータを改ざんしたのがよきライバルの同期だったりで、

ねえ、リアルの世界もたいがい身近な人が恐ろしかったりするそうだ。



となれば、君の正しい事務処理は何かな?


ちなみに、ここで瞬時に答えが浮かばない天然組は、女子会ってやつに呼ばれなくなるだろう。