雨の音

塁はスコッチを舐めながら、彼が考え込んだときにする、あごを撫でる仕草をしていた。

「どうしたの?」

僕は塁に聞いた。

「いや、ちょっとね。今日はひさびさに青山のレストランで食事にしようか」

「ああ、いいね」

「ちょっと待っててくれ」

塁はボーイをひとり呼んで、なにかを頼んでいた。

数十分後、ボーイは海外の高級ブランドのショップの袋を塁に渡し、チップを払った。

「まだ、あそこにいるみたいですよ。さっき話しかけたら、動けないって言ってたから」

ボーイはそう言い、素早く立ち去った。

ママが戻ってきて、

「あら、もうお帰りになるの?」

「ああ、ちょっと用事ができてね」

「その顔はなにかおもしろいことを企んでるわね」

「ははは。ママはさすがに鋭いな。また来るよ。ごちそうさま」

「ええ、ありがとう。せっちゃんもありがとうね」

ママはにっこり笑い、丁寧にお辞儀をした。

「ごちそうさまでした」

僕らはそう言って、お店を立ち去った。