塁はエイズ患者なのだ。
ママを含めて、親しい友人はみんな知っていることだけれど、画商という職業柄、いろんな人間と関わるため、今はもう画商はほとんど引退していると言っても、若い画家や芸術家を育てることにはまだまだ精力的で、塁はいつも忙しくしている。
けれど、エイズはなによりストレスが大敵なのだ。幸い、僕も含めて塁の友人はエイズに関して知識も理解もあるし、そして、塁の昔からの友人がエイズの治療を積極的に取り組んでいる病院の院長をしている。
しかし、塁のCD4が300台になっている今、合併症が起きやすくなっている。この前もヘルペスがなかなか治らず、入院したばかりなのだ。もちろん、そのこともママは知っている。
「そう・・・でもそう言ってくれるのは本当にうれしいけど、塁さんはどんなことでも無茶しちゃうんだから、体調には気をつけてね。あたしのことなんて、二の次でいいのよ」
そう言いながらも、ママはひさびさに顔色の良い塁と話せて、しあわせそうだった。
「ああ、ありがとう。雪にもうるさいくらい言われてるんだけど、どうしても仕事が楽しくてなあ」
「そりゃそうでしょう。若くて可愛くて、才能のある子が塁さんを神様みたいに慕うんだもん」
ママはけらけら笑いながら言った。
「たしかにそうだ」
塁も笑った。
「そういえば、知ってる?ここ最近二丁目にすっごくきれいな男の子が出没してるの!みんなうわさしちゃってねえ」
ママは客もいないのに、ひそひそ声で話した。
「それって・・・」
「さっきの男の子のことかな」
僕も塁もビルのあいだに座っていた美しい顔立ちの男を思い出した。
「うーんとね、もうすっごく整った顔立ちしてるの。ここにも働かせてほしいって来たんだけど、面接ではOKしたんだけどね、実はあとから聞いたら、15歳だって言うのよ。だから18歳未満は水商売は無理なのよってお断りしたんだけど、全然15歳の少年の青臭い感じがなくって、びっくりしちゃったわよ」
「え、あのひと、15歳なんですか?」
「うん、本人がそう言ったのよ。中学は出てるって言ってたけど、身分証もなんにも持ってないし、行くところも帰るところもないって言ってて、服も髪の毛もぼろぼろでね。なんだか憐れになっちゃって、5千円渡して、これでなにか食べなさいって言って帰らせたんだけど・・・」
「さっき、清美さんのお店の近くにいたよ」
「え!あたしのお店に面接に来たの1ヶ月くらい前よ!本当に行くとこも帰るとこもない子なのね・・・」
「そうか」
「あら、もうこんな時間。ちょっと失礼するわね」
開店時間になり、ママはソファから立ち上がり、客の対応に追われていた。
ママを含めて、親しい友人はみんな知っていることだけれど、画商という職業柄、いろんな人間と関わるため、今はもう画商はほとんど引退していると言っても、若い画家や芸術家を育てることにはまだまだ精力的で、塁はいつも忙しくしている。
けれど、エイズはなによりストレスが大敵なのだ。幸い、僕も含めて塁の友人はエイズに関して知識も理解もあるし、そして、塁の昔からの友人がエイズの治療を積極的に取り組んでいる病院の院長をしている。
しかし、塁のCD4が300台になっている今、合併症が起きやすくなっている。この前もヘルペスがなかなか治らず、入院したばかりなのだ。もちろん、そのこともママは知っている。
「そう・・・でもそう言ってくれるのは本当にうれしいけど、塁さんはどんなことでも無茶しちゃうんだから、体調には気をつけてね。あたしのことなんて、二の次でいいのよ」
そう言いながらも、ママはひさびさに顔色の良い塁と話せて、しあわせそうだった。
「ああ、ありがとう。雪にもうるさいくらい言われてるんだけど、どうしても仕事が楽しくてなあ」
「そりゃそうでしょう。若くて可愛くて、才能のある子が塁さんを神様みたいに慕うんだもん」
ママはけらけら笑いながら言った。
「たしかにそうだ」
塁も笑った。
「そういえば、知ってる?ここ最近二丁目にすっごくきれいな男の子が出没してるの!みんなうわさしちゃってねえ」
ママは客もいないのに、ひそひそ声で話した。
「それって・・・」
「さっきの男の子のことかな」
僕も塁もビルのあいだに座っていた美しい顔立ちの男を思い出した。
「うーんとね、もうすっごく整った顔立ちしてるの。ここにも働かせてほしいって来たんだけど、面接ではOKしたんだけどね、実はあとから聞いたら、15歳だって言うのよ。だから18歳未満は水商売は無理なのよってお断りしたんだけど、全然15歳の少年の青臭い感じがなくって、びっくりしちゃったわよ」
「え、あのひと、15歳なんですか?」
「うん、本人がそう言ったのよ。中学は出てるって言ってたけど、身分証もなんにも持ってないし、行くところも帰るところもないって言ってて、服も髪の毛もぼろぼろでね。なんだか憐れになっちゃって、5千円渡して、これでなにか食べなさいって言って帰らせたんだけど・・・」
「さっき、清美さんのお店の近くにいたよ」
「え!あたしのお店に面接に来たの1ヶ月くらい前よ!本当に行くとこも帰るとこもない子なのね・・・」
「そうか」
「あら、もうこんな時間。ちょっと失礼するわね」
開店時間になり、ママはソファから立ち上がり、客の対応に追われていた。
