のたお印の短編集

言葉を発する事なく、更に密林の奥深くへ。

ここから先は足音さえも立ててはならない。

このような視界の悪いジャングルで、先に発見されてしまうというのは命取りだ。

気配を殺し、注意深く、神経を研ぎ澄ませて慎重に…。

「貴様は誰だ?」

にもかかわらず、いつの間にか背後を取られた事に、省吾は驚愕する。

首に腕を回され、鋭い切っ先を突きつけられる。

抜き身の軍用ナイフ。

それ以上に背後から伝わってくる殺気の方が鋭利に思えた。