夜の闇の中、男はひたすらに走る。

息が上がっていた。

汗が止まらなかった。

無理もない。

もう数十キロは走り続けているだろう。

行けども行けども険しい山中。

足元は切り立った崖だ。

踏み外さずにいられるだけでも僥倖だった。

月すら出ていない真夜中。

こんな山奥を、まるで昼間のように走り続けている。

彼には『見えていた』。

明かり一つない闇の中でも、地面に這う木々の根も、葉の一枚一枚さえも。

鮮明に見えていた。