私はもう、人を信じることが
怖くなった。

私は、前澤 千春(まえざわ ちはる)

中学2年の秋。私は二股をされた。
戸田 直人 (とだ なおと)
相手は私の部活の後輩。

気づいたのは、靴箱の中に置かれた手紙。
そのとき、私は文通をしていた。
見覚えのある手紙が一学年下の後輩の
靴箱に入っていた。
私はそんな気にしていなかったから、見て見ぬフリをしていた。

ある日、恐れていたことは起こった。

友達と歩いていたとき、私が1番信頼していて、私を1番応援してくれる後輩が
私の所に走ってきた。

「千春ちゃん!ヤバイって‼」

「どうしたん?」

「アイツ、千春ちゃんの彼氏んとこに
昨日泊まったって‼」

「は?」
意味が分からなかった。
アイツは、私の後輩で浮気相手。

私はイライラというよりも、悲しかった。今までこんなに愛して、こんなに
も尽くしてきたのに…

涙さえ出なかった

わたしは、直人にその事を聞くと、何も答えず、ただ、
「別れよう」
とだけ言って、どこかに行ってしまった。
私はこのときにもう男という生き物を
信じれなくなった。


「もうすぐ文化祭だぁ…」
もう直人はいない、寂しい私の隣。

とぼとぼ帰っていると、
「前澤さん?」
後ろから声が聞こえた
振り返ると、そこにはネックウォーマーをつけた男の子が1人。
たしか、名前は…
遠田 真太郎(とおだ したんたろう)

あんま話したことなかったな。

「はい?」
と答えると、真太郎くんはニコっと笑顔をつくった。

「今日は1人なの?」
あ、そっか、私は今1人なんだ。
「うん。そうなんだ」
「…なんかあったの?」
「っ…」
痛いとこつかれた。

「な、なんでもな…」

ポロッ
「⁉」
涙が溢れてきた。
さっきは涙なんて一滴も流れなかったのに。
あたふたした私を見ていた真太郎くんは、
「ごめん…」
と言って、そっと頭を撫でてくれた。
突然だったから、胸がドキドキしていた。
「あ、いや、べつに、真太郎くんのせいじゃないしっ」
「俺、空気読めよ!」
自分に怒る真太郎くんを見ていたら、
「あはは」
笑っちゃった。こんなに重かった心が、いつの間にか軽くなっていた。

「やっと笑った」

真太郎くんはまたニコッと笑った。
気づいたら涙は止まっていた。

でも…
「あ…じゃ、帰るんでっ!さよなら」
まだ、男という生き物を信じることができなかった。

“ずっと一緒に居よう”
この言葉で私はだまされた。

「嫌だぁ…」
大好きだった直人。いきなり別れようって言われても、やっぱりまだ好き。

でも、信じてもどうせ裏切られる。
私は決めたんだ。もう人を信じない。
人を好きにならない。