「カバンだけ置いてくるから、ちょっと待ってて」
「うん」
このやり取り、すごく懐かしい。
付き合い始めの時とか、こうやってまず拓の家に寄って拓が荷物を置いてから、私の家まで付き合ってくれてたんだよね。
風が寒くてマフラーを巻き直していたら、拓が家から出てきて私のカバンを持ってくれた。
「…ほら。手ぇつなご?」
「あ。拓の手、あったかいね」
「俺の手は柚をあっためるためにあるからな〜」
「知ってるよ、それ」
でも、私の手だけじゃないよ。
今日は少し落ち込んでしまったこの心まで温めてくれている。
ついついいつもの拓のセリフに微笑んでいると、拓はそのままつながれた手を制服のポケットに突っ込んだ。
「こーしたら更にあったかくね?」
「そうだね」
「まあ…、どーなるか分かんねえけど、まだ受験シーズンは終わったわけじゃねーよ。落ち込んでる暇があったら、次に向けて頑張らないとな」
「うん。みんなのおかげで勉強する意欲が沸いてきたよ」
「柚もH高受けるんだっけ?」
「あ、うん。一応…」
チャンスは何度もあった方がいいし、もしA高の一般試験を受けるなら、試験慣れしておいた方がいいと思って、私はとりあえずH高校も受けることにした。
もちろん、A高もH高も受かったら、A高を取ると思うけど。
「マサと蘇我と柚…、誰がH高受かるんだろーな」
「みんな頑張ってるもん、受かってほしいね」
「だよな〜」
すると、拓のポケットの中で何か固いものが指に当たったような気がした。
拓…、ポケットの中に何か突っ込んだままにしてたのかな?

