…というか、あーさんに言われるまでまたちょっと忘れそうになってた…。
来月で私と拓が付き合い始めて、1年半になるんだよね。
再び私がトラックの方に目を向けると、拓は8コース中の内側から5番目のところでスタンバっていた。
いよいよ…、拓の戦いが始まる。
パンッ!
一斉に選手たちがクラウチングスタートからスタートダッシュに体勢を変えていく。
私は青いユニフォームを着た拓の様子だけ懸命に目で追った。
まっすぐ、大きく振る腕に、大きなストライド。
他の走っている人達も陸上部でトレーニングを積んでいるハズなのに…、拓はあっという間に身体2つ分くらい前に出て、そのまま風のようにゴールラインを走り抜けて行った。
「…速っ!!何あれ?瀬川くん、圧倒的に一番だったね」
「うん。いつも見てるけど、やっぱり拓はすごいよね」
「さっきのが…、100m?あんな一瞬で終わっちゃうんだ…」
「でも拓だけじゃなくてみんな、あの一瞬に賭けてるんだよね」
「あの一瞬のために練習かぁ。すごいなー、ホント」
陸上の大会では初めて拓の走りを見たあーさんは、驚いて興奮していたみたいだった。

