三毛猫レクイエム。


「…………」

 私の心の整理はついていない。こんな、曖昧な気持ちのまま、ヒロに会いたくなかった。余計に混乱してしまいそうだったから。

 みゅああっ

「ヨシ、どうしたの?」

 ヨシが、全身の毛を逆立てて私を見ている。ヨシは大人しい猫で、一緒にいるときにこんな姿を見せたことはなかった。だから私は困惑した。

 みゃああぅっ

 尻尾をぴんと立てて、私に向かって牙を向いている。

「…………」

 私は、躊躇いながらもヒロの携帯に電話をかけた。

「……あ、もしもし?」
『……お客様のおかけになった番号は、現在電波の届かない……』
「え?」

 録音された声が再生されて、私は電話を切った。ヨシを見ると、私のズボンを引っ張っている。
 その姿は、私に何かを伝えようとしているように見えた。

「……ヒロに、何かあったの……?」

 ある、嫌な予感が頭をよぎった。

 みゃっ

 私の言葉に反応するように鳴くヨシ。ヨシを抱き上げてみれば、足元は汚れ、その肉球に血が滲んでいた。
 もしかしてヨシは、ヒロの異変を誰かに伝えるために私のところまで走ってきたのかもしれない。

「っ!」

 そう考えた瞬間、私はヨシを抱えて走り出していた。


 息を切らしながら、私は前にヒロが言っていた住所までやってきていた。そこは住宅街で、似たようなアパートやマンションがある。

「はぁ……はぁ……どこだろう……」

 私が足を止めると、今まで大人しく抱かれていたヨシが突然暴れだした。私はヨシをおろしてやる。

 みゃあっ

 まるでこっちだと言う様に、ヨシが走り出す。私は慌ててその後を追った。しばらくすると、ヨシがアパートの部屋の扉を引っかいていた。表札は阿東となっている。ヒロの部屋で間違いなさそうだ。

「あっ、ヨシ……っ」

 私が息を整えながらドアノブに手を伸ばすと、ヨシが突然いなくなってしまう。

「よ、ヨシ?」

 しばらくすると、その部屋の中から猫の鳴き声が聞こえてきた。私はインターホンを鳴らし、

「ヒロ!」

 呼びかけてみた。だけど、何度呼んでも返事がない。ヨシの鳴き声がドアの近くから聞こえる。ドアをはさんで向こう側から鳴いているようだ。