三毛猫レクイエム。


「?」

 何かと思って広げてみると、それはあきの書きかけの歌詞だった。

「……っ」

 私はその紙を指でなぞって、息を呑む。私の前ではあれだけ淡々としていたあき。だけど、この紙に刻まれている無数の丸い皺は、塗れて乾いた証だ。
 そして、生きたい、と書きなぐられた文字。
 いつ、書いたのかはわからない。だけど、昨日の血液検査の後、私がいないときだろう。

「あき……っ!」

 私は、紙を握り締めて泣き崩れた。
 私の前では平静を装っていたあき。でも、病気になったのはあきだ。私じゃない。あきが動揺しているのは当たり前だったのに。

「ごめん……っ、あきっ」

 本当は私が支えてあげなくちゃいけないのに。私が泣いてる場合じゃなかったのに。

「あ……きっ」

 私は涙をぬぐった。

「ごめんね、あき。私も、頑張るから……っ」

 あき、私、あきを支える。
 あきに守られてばっかりじゃない。私もあきを支えるから。
 一緒に、あきと闘うから。あきを笑顔にするから。

「お願い……良くなって……っ」

 私は、見えない何かに、ただただ祈った。



 あれから、ヒロに会わない日々が続いていた。自分の心と、向き合うために。
 何度考えても、私には一歩を踏み出す勇気はなく、ヒロの元へと向かう決心は付かなかった。
 それなのに、心のどこかでヒロに会いたいと思ってしまっている自分に気づいて、苦しくなる。
 あきへの想いと、ヒロへの感情。
 いまだにヒロへの想いが何なのか、自分でもわからない。

 あきという共通点で繋がっている私達。あきの思い出を語り合うために会っていた日々。そんな日々を送っているうちに、ヒロの存在が私の中で大きくなっていたのかもしれない。
 しかし、それは私のあきへの想いのせいなのかもしれない。あきのことを話せる存在としてヒロを必要としているのかもしれない。

 いまだ心の整理が付かない状況で、毎日を淡々とこなし、必死に考える日々を過ごしていた。


 その日仕事から帰ってくると、部屋の前にヨシがいた。

「……ヨシ?」

 みゃあっ

 必死に私の部屋の扉を引っかいていたヨシは、私に気づいて私の足元に突進した。

「え……でも、なんで?」

 ヨシの姿に困惑する私。辺りを見回すけれど、ヒロの姿は見えない。

「ヨシ、一人なの?」

 みゃああっ

 ヨシは私の足元を引っかいて、ズボンのすそを噛む。

「どうしたの?」

 私を促すようなその仕草に、私は首をかしげた。それに、ヒロがいないのにどうしてヨシがここに来たのだろう。
 私は携帯を取り出して、ヒロに電話をかけようとした。だけど、その手が止まる。