三毛猫レクイエム。


「嫌だ……消えないで……」

 私は震える手で携帯を開いて、あきの写真を見た。

「あき、お願い……消えないで」

 いつもと変わらぬ笑顔で私を見つめるあき。だけど、私の心は恐怖でいっぱいだった。
 あきのことを忘れたくないと思っていた。あきの笑顔をいつでも思い出せることに安心していた。
 なのに、私の思い出の中のあきの笑顔が、ヒロの笑顔に塗り変わっていく。
 それが、怖くて仕方がなかった。

「あき……っ」

 前に進みたくないわけじゃない。だけど、あきのことを忘れたくなんかない。
 ヒロと会っているのは、あきの思い出を笑顔で思い出すためなのに。

「嫌だ……」

 目に焼き付けるように、あきの笑顔を見つめる私の目から、涙が溢れ出していた。



 付き合いだしてから、喧嘩らしい喧嘩をしたことはなかった。
 喧嘩するほど仲がいいとはよく言うけれど、喧嘩なんてしないに限ると思っていた。

「……っ」

 だから、週刊誌に『TAKI、美人モデルと熱愛か』と載っていても、あきのことを信じている私は、何も言わなかった。
 何も言わなかったけれど、心中穏やかではなかったのは言うまでもない。

 その記事が載ったのは、“Cat‘s Tail”の全国ツアーの最中のことだった。会えない日々が続いていたけれど、毎日電話がかかってきたし、メンバーと一緒の写メが届いたりで、いつもあきを近くに感じていた。

『あの記事信じちゃ駄目だぞ』
「うん……」

 週刊誌が発売されて、ワイドショーでもとりあげられた日、あきはすぐに私に電話をかけてきた。

『真子、あれ、レコード会社の役員の娘さんだから。本当にやましい関係とかそういうんじゃない』
「わかってる。あきのこと、信じてるよ」

 私の言葉に、電話越しにあきが安堵のため息をついたのがわかった。忙しいのか、あきのことを呼ぶ声が、遠くから聞こえてくる。

『近くにいてやれなくてごめんな』
「うん。ツアー頑張ってね。それじゃあね」

 私は邪魔をしたくない一心で電話を切った。