「Cat‘s Tail……」

 ヒロだけじゃない、そこにはテツとユキの姿もあった。足りないのは、あきの姿だけ。

「驚いた?」

 マイク越しに、ヒロが尋ねた。頷く私を見て、ヒロが微笑む。

「今日は、真子に聴いてもらいたくて」
「え……?」

 突然、テツがカウントを始める。その瞬間、聴きなれた曲のイントロが始まった。その音量に、腕の中のヨシが驚いた。

 あきが白血病になって以来、活動を休止した“Cat‘s Tail”。あきの死を期に、解散してしまった彼ら。その彼らが、また“Cat’s Tail”として演奏しているという事実に、身体が震えた。
 そしてそこにあきがいないということに、寂しさを覚えた。

 ヒロがベースを弾きながらマイクに向かった。

♪ どんな辛いことも 君となら乗り越えられる だから一生 手をつないで

 あきとは違う声が、その歌詞に命を吹き込む。

♪ ささいな幸せに涙する君 愛おしくて仕方がないから

 あきが私への想いを綴った「AINOUTA」を、ヒロが歌っている。
 あんなに、ベースを持つのが怖いって言ってたのに。

♪ 泣き虫な君の笑顔に送りたい 溢れ続ける I Love You

 女々しいだろって、自分で笑ってたのに。

 みゃ……みゃ

「っ」

 腕の中のヨシが、まるで歌うように鳴き声をあげて、私は驚いた。ヨシは心地良さそうに、喉を鳴らしながら時折鳴き声を上げる。

 それからは、“Cat‘s Tail”のメドレーになった。

 ヒロの歌声に合わせて、私も口ずさむ。笑顔であきの歌声を思い出して、そして演奏に酔いしれた。
 ヒロが、テツやユキにもマイクをまわして、歌声を繋いでいく。
 すると、テツのドラムを合図に、私の聴いたことがないメロディーが流れ出した。