「ねえ、ヒロ」
自分が心を許していたヒロに、私を幸せにして欲しいと思ったのかもしれない。
「うん?」
あきが大好きだった私の笑顔を、ヒロの手に託したのかもしれない。
「真子さん、っていうの、やめない?」
私がそう言うと、ヒロは少し目を見張った。そして、微笑んだ。
「真子」
そう呼ぶ貴方の声が、思い出の中のあきの声と重なっていた。
私達は、スタートラインに立ったばかり。
これから、少しずつ新しい関係を築いていけたらいいなと、切実に願った。
泣き過ぎて腫れあがった私の目から、涙がこぼれることはない。
私も、ヒロも、あきの想いを受け止めたから。
あきの分まで、幸せになる。
それがあきの願いだから。
だから、今度こそは、ヒロとずっと一緒にいたいと思った。
あきのことは忘れられないし、あきのことを好きだという気持ちは変わらない。
もしかしたらこの気持ちは、時間と共に色褪せてしまうものなのかもしれない。
それでも、私があきを愛したということを、あきが私を愛してくれたということを、覚えていられたら幸せだと思う。
ヒロのおかげで取り戻せたこの笑顔を、あきのために守っていきたい。
何もかもを諦めなくてはいけなかったあきが守りたかった私の笑顔を、ヒロとの未来に託したい。
私達が一緒にいることを快く思わない人は大勢いるだろう。だけど、その人達はあきの想いを知らない。
私達はあきの想いを痛いほど知っているから、それを守っていこうと思う。
今はまだ、左手のこの指輪を外したくはないけど、でもいつか、外さなくてはいけない日が来ると思う。
そのときは、笑顔であきに報告できるように、私は強くならなくちゃいけない。
私の左手には、あきのくれた指輪と、ヒロのくれたブレスレットが光っていた。