「ヒロ、真子のことを笑顔にしてやってほしい。真子、俺の分も、幸せになってくれ」
「わかったよ」
私の返事に、晴れ晴れとした笑みを浮かべたあきは、かすむように消えてしまった。
「ヒロ、あき、どこ行ったの?」
私はヒロに尋ねた。ヒロは、優しい笑顔で微笑んだ。
「帰ろうか、真子」
「うん」
ヒロの優しい声で真子と呼ばれ、酷く安心する。
ぼんやりとした、曖昧な空間の中、私はヒロに運ばれながら目を閉じた。
小鳥の囀りに、私ははっとして目を開けた。
リビングにいたはずの私はいつのまにかベッドで寝ていた。困惑して辺りを見回すけど、ヒロの姿は見当たらない。
「あ」
暖かいものに触れて、何かと思ったら、私の隣でヨシが眠っていた。ということは、ヒロはまだ帰っていない。
ほっと安心して、私は鏡を見た。
「……酷い顔……」
昨日あれだけ泣いたまま眠ったんだ。瞼が腫れあがって、酷い顔になっていた。顔を洗うために、寝室を抜け出すと、ヒロがリビングのソファで眠っていた。
起こさないように洗面所に行って、顔を洗う。だけど腫れは一向に引いてくれそうにない。
だけど、不思議と爽快な気分だった。心にたまった何かを洗い流すような泣き方をしたせいか、今までにないくらい心が軽かった。
私は服を着替えて、リビングに向かう。眠っているヒロを起こさないように、キッチンへと入った。
きっと昨夜は、ヒロの腕の中で泣いたまま眠ってしまった私を、ヒロがベッドに運んでくれたんだろう。
今まで私の心を戒めていた何かが、昨日の涙と一緒に流れてしまった気がした。
おばさんや明菜ちゃん、そしてあきの言葉を、素直に受け止めようと思った。私は、ヒロのことを好きになっているから。


