これは、僕がまだとても小さな頃の思い出。
街に街頭は少なく、夜は真っ暗。祖父もまだ若く、元気で、髪も黒かったらしい頃の話。

当時、祖父の家に行くときは、いつも祖父が迎えに来てくれた。

祖父の車には舌を出した狐が乗っていて、それは僕のお気に入り。
夜に車を走らせるのが好きな祖父は、夕方に僕の家を出発。高速には陽が完全にくれてから乗った。

そしてあれは冬だったと思う。嫌だと言うのに母は無理やり僕に毛糸のセーターを着せたから……

話がだいぶそれたけれど、ここからが本題だ。
僕の忘れられない思い出。僕が現在、何故こんな仕事をしているかという思い出。

丁度、県境辺りにあるパーキングエリアでの事だ。
休憩の為、祖父と母と僕は車を降りた。そのパーキングエリアには小高い丘がある。

思い出のキーパーソンはその丘で望遠鏡を調整していた。とても大型の望遠鏡。

周りには数人の子供と大人達が集まっていた。
僕たちもそこへ行ってみたんだ。

『絶対に動かしちゃ駄目だよ』

望遠鏡の持ち主であろう初老の男性は、そう言いながら周りの人に望遠鏡を覗く事を許していた。

初めに話しかけたのは祖父。

「何が見えるんですか?」
『土星です。輪っかまできっちり見えるんですよ。見ます?』

男性にそう言われた祖父は望遠鏡を覗く。
そして、僕を呼んだ。

『坊やも覗いてごらん』

優しく微笑む男性に僕は望遠鏡を覗いた。

そこには、図鑑で見たのと全く同じものが写っていた。ただ、色は白黒だった。それでも僕はとても驚いたのだ。

夜空を見上げてもただの点なのに、望遠鏡を使えばあんな遠くのものが見えるのだと――

その後、僕は祖父に望遠鏡を買って貰った。いつでも星が、遠くの世界が見えるように。
目が悪くならない努力もした。身体測定の視力検査はいつも、2.5。

中学に入った時は視力の良さを生かし、弓道部に入部。高校では射撃部にスカウト。
すべてはあの日、あの男性が望遠鏡で未知の世界を見せてくれたから。
というのは少しこじつけかも知れないが、人生とはそんなものなのだ。

それで僕の今の職業だけど、それは特殊部隊の“狙撃手”。
趣味は勿論、天体観測とバードウォッチングだけどね。


「ねぇ、お爺さん。お昼でもそれを使ったらお星様見えるの?」
『ああ、見えるよ。見て見るかい?』
「ありがとう!わぁー土星だ」