全ての窓から夕日が射し込んでいるというのは、どことなくおかしな感覚に陥らされる。

吐き出した煙はその光と絡み合いながら、ゆっくりと空気に混ざり合い透明になっていく。

静かすぎるというのは自分の中の感覚を狂わす。

誰かの持ち物であるMDプレイヤーの中にあった、英語の歌を口ずさむ。
そうしていると少し気が紛れるのさ。

吸い終わった煙草を灰皿と称した空き缶に捨て、俺は座っていた机の上から降りた。
机にはマジックペンで相合い傘が書かれているから、これはきっと女子のものだ。

夕日に目をしかめながら、窓を開け放つと生温い風がなだれ込み、カーテンを幾度も揺らす。

町の工場からは煙が上がり続け、時折風に乗って色んな香りが届く。

夕方独特の香り。

用意されているご飯の香りや、家路に急ぐ車の排気ガス、それから夜の香りが混ざっている。

それなのに町には人の姿がない。そして、この場所にも誰もいない。

俺は窓を閉めて、教室を後にした。

普通に通っていた時は気が付かなかったし、考えもしなかったが、学校というところは意外に装備が揃っているところだ。
それに加え、生徒一人一人の持ち物を合わせると、不自由する事は少ないということを知ったわけで……
ついでにいえば、みんなが真面目でなくてよかった。とも思っている。MDプレイヤーを始め、ゲーム機、漫画、お菓子。
いろいろな物がある。
ちなみに煙草は職員にあった。
教員達は生徒に様々な物を持ってきてはいけないというが、さらに色々な物を持ち込んでいる。

夕日に染まる廊下を歩きながら、俺は新しく煙草に火をつけ、煙を吸い込む。

どうして、自分がこうなっているのかは自分でもよくわからない。
ただ、現在の状況を言えば何も変わらないのだ。

ずっと吸い続けている煙草も、学校内にある食料もどんなに使ってもなくならない。
ものを壊しても元に戻る。
逆に作った物も元に戻る。
戻らないのはゲームのセーブデータくらいだ。

俺はいつまでも変わらない夕焼け色の空を眺めながらうなだれる。

「なんでこんな事になってんだよ……」

そう、俺はただ、あの時、赴任してきた初日に……