高いフェンスに囲まれた向こうには住み心地の良さそうな平地が広がっている。
けれど、仕事を失い、家を無くした私達は狭く汚い路地裏で暮らすしかない。“温かいベッドで眠りたい”そんな些細な願いも叶わない。
だから、日当たりの良い、広大な土地を見て夢を見る。
“あの土地にマイホームを取り戻せたら”と――

「ジョン、あの話聞いたか?」
路地裏暮らしをする仲間はそう言って、あの土地に大きなスピーカーが立った事を話してきた。
タワーの様に高いスピーカーはあの土地の丁度真ん中辺りに立っている。きっと、どの方向から見ても見えるだろう。

それから数日が経つと、スピーカーを中心にして町が作られ始めた。家が運ばれて来て電気が引かれる。

また数週間経つと、こんな立て札が立てられ、フェンスが撤去された。
《ここに町を作りたいと思います。入居者募集》

ご丁寧に政府のマークが押されている。
最初の数日は誰もが「政府のいいなりになるものか!!」と言ったが、数日経つと、1人、2人と用意された町に住む人間が現れ、一ヶ月後には路地裏に住む人間は居なくなった。

そう、政府の作戦は成功したのだ。



「ところで、マーク。何故、あのスピーカーを中心に町を作ったのだろうか?」
平和に幸せに暮らす中で友人にそんな疑問を投げかけた。
「そんな事知る訳ないだろ?」
友人はそう返事をする。私はどうにもこのスピーカーに違和感を覚える。

この町に住み始めて一年が経とうとしている時だった。初めてスピーカーが利用された。

『ただいまより、実験を開始します。関係者はお逃げ下さい』

それから5分後、この町は消滅した。もちろん、人間も含めて。


「おい、デビッド。あの巨大なスピーカーがある土地に町が作られて、入居者を募集するらしいぞ」
路地裏仲間のクリプトンがそう言う。
僕はそこに住んでみようと思う。ふかふかのベッドで眠りたい。そう言うと母さんに行方不明の父と同じ事を言っていると言われた。