《扉》

 これは団地住まいの普通の主婦に起こった話。

 その晩、旦那は出張でその家にはその主婦一人だけだった。
 ゆっくり出来ると、羽を伸ばしていた彼女は夜遅くまで借りてきた韓流ドラマを見て過ごしている。時計の針が1時を指す頃に、彼女はそろそろ眠らなければと思い、玄関横の寝室に向かって眠る準備をした。
 家の中の電気をすべて消し、彼女は寝室の窓を少しだけ開ける。

 季節は9月を半分程過ぎた頃で涼しかったのだが、その日は何だか空気が少し重い。
 敷き布団の上で何度か寝返りをうってみたが、なかなか寝付けない。彼女は床に耳を付けるような体勢で目を閉じる。
 すると何処からともなく、小さな子供の笑い声が聞こえてきた。
 「ここは団地だし、どこかの子供が夜更かしをしているのか」とも思ったけれど、子供は1
人だけじゃ無いようだ。少なくとも3人はいる。

 不思議に思っていると突然、

 ――コンコン。

 と玄関をノックされた音が響いてきた。
 時計を見ると、針はもう深夜2時を指そうとしている。
 おかしいと思いながらも彼女は起き上がって玄関に向う。
 するとまた、

 ――コンコン。

 とノックの音が。
 音を立てないように用心しながらドアスコープを覗いたが誰もいない。
 でも、扉をまた

 ――コンコン。

 とノックされる。
 よく耳を澄ましてみると、小さな子供が必死に笑いをこらえる声が聞こえた。
 彼女は得体の知らない恐怖を覚えてゆっくりドアから離れる。