《静寂の曲》

日本のある売れていなかった作家が一曲のオーケストラ曲を書き残して自殺した。
そして、その曲はアメリカの有名な一人の指揮者の目にとまったのである。
「なぜこの作曲家が売れていなかったのかわからない!」
と驚愕するほどに素晴らしかったという。

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 その曲は様々な楽器の個性をとても生かしており、それなのに初めて聞く人でもとても分るようなくらいうまく表現をされていた。
 街の中心から郊外に行くように、始めはとてもにぎやかで車の音、人の話し声、工事の騒音など街独特のにぎやかさをもち、その音がだんだん小さくなって今度は森の風の音、鳥の声、小川のせせらぎの音などとても心地よいものになってゆく。
 しかし、指揮者が一点だけ疑問に思ったのは楽器はラストに行くほど少なくなり、曲の終わりには指揮者が棒を振るだけ、つまり4分44秒のような無音状態になって終わる。
 それでもこれはこれで面白いと、その指揮者は次の公演でその曲を演奏する事に決めたのだった。

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指揮者はその曲を演奏する前にもう一度その曲のオリジナルである楽譜を見ておこうと思い、楽譜を手にする。
 すると、その楽譜の一番最後の一番したの隅に、日本語で何か指示のようなものがかかれていた。でも、指揮者は日本語だった為それを読むことができない。
 そのまま演奏会は始まった。
 例の曲は一番最後に演奏することになっている。

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期待に満ちたなか、ついに最後の曲となった。
ミスもなくとても順調。街から音が――楽器が一つずつ消えていく。そして、森へ、最後には静寂に。
 無音の状態が訪れ、曲が終わった。

 演奏を終えた指揮者はおかしいと感じる。
 何故なら演奏者が皆、ぴくりとも動いていないのだ。
 それに、拍手の音もなければ観客も誰ひとり動かない。

そうなのだ、そこにいた人は指揮者意外全員死んでしまたのだ。

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 楽譜の最後に書かれていた言葉。それは……
           「心臓の音さえ聞こえない」。