桔平と佐久間は高校の同級生である。確かにあの頃から桔平の事を変な奴だとは思っていたが、相変わらずの変人ぶりだ。
高校を卒業しての進路は互いに知らない。高校を卒業して以来の再会だが、感動の再会とはならなかったのは事実である。
希奈子は桔平にまったく興味が無いようで眠そうにしている。
「寝てもいいけど、ここでは寝んなよ」と言うと希奈子は立ち上がり、おやすみなさい、女装癖さん、佐久間さん。と言って奥の部屋へ消えた。
「女装癖って!」桔平の声は虚しく響いた。
「お前、変装を試したい。って言ってたよな？まさか趣味じゃねえだろ？」趣味だったら、一発殴らせてもらおうと思っていたが桔平は「趣味なわけないじゃん。仕事だよ、仕事」と意外な答えを出した。
「お前どんな仕事してんだよ」と佐久間は言ったが、そもそも自分の仕事はどう説明すれば伝わるのかと考えた。
「実は俺、警察官になったんだ。今は大人の事情で潜入捜査とかしてるってわけ。そりゃ変装の完成度も高くなるわけさ」佐久間は、桔平が警察官になった事に驚いていた。
「警察官的に言えば、佐久間のその拳銃。銃刀法違反だからね。逮捕だよ、逮捕」と笑っていたが逮捕する気はまったくないようだ。
「佐久間の腕も落ちていないようだし、安心したよ。何かあったら頼むよ、何でも屋さん」桔平は佐久間の仕事を知っていた。

＊

「お前、俺の仕事まで調べやがったか」と感心する反面、情報の出所が少し気になった。
「いやいや、君たち意外に有名だよ？腕の立つ男と女の子って」
有名なら仕事が増えるはずだが、最近の仕事は障子の張り替えのみだ。どの世界で有名なのか、考えたくもない。
「変な依頼には手を出しちゃいけないよ、佐久間。」
もしかしたら、桔平はこれを伝える為にここへ来たのかもしれない。わざわざ女装までして。少しだけ佐久間は桔平を見直した。