燃やせるゴミ、燃やせないゴミ、資源ゴミ、プラスチックゴミ、ビン・カン・ペットボトル、金属ゴミ。他にもあったが忘れた。冷蔵庫に貼っておいたゴミの分別表は、どうやら藍璃ちゃんが捨てたらしい。それは燃やせるゴミに分類されたのかどうかは、あまりの落ち込み様に聞いていなかった。
「ごめんね、大翔くん。大事な分別表だったのに」
「いや、別に大事じゃないし。また貰ってくればいいし、何ならインターネットで見れるからさ」
 やけに薄い緑茶は、藍璃ちゃんがなけなしの謝罪の気持ちとして淹れてくれたものだ。文句をつける気にならない。
「え、インターネット?」
 かたん、と音がして藍璃ちゃんお気に入りのマグカップからお茶がこぼれた。驚いた衝撃で落としてしまったらしい。割れなくて良かった。割れたマグカップはどのゴミになるか分からない。
「インターネットって、あのインターネット? 便所の落書きから人生相談まで何でもこなすっていう、あの? ゴミも扱ってるの?」
「何でもこなすなら、ゴミくらい朝飯前だろ」
「そうね、ゴミは朝飯前に出さないと回収してもらえないもん」
 そういう意味じゃない。
「じゃあ、大翔くん。さっそくインターネットで聞いてみてよ。私、キカイのことは良く分からなくて」
 それは何度も聞いているから、俺はちゃんとよく分かってる。しかし、18歳の藍璃ちゃんがインターネットという言葉を知らないというか、使いこなせていないのは意外だ。俺の中の女子高生イメージは、携帯片手にノートPCでも扱っているようだった。まあ、東京に出てきて、このイメージもだいぶ世間擦れしていると知ったのだが。
「でも、まだ越してきたばっかりで契約してないからなあ。俺のスマホじゃ小さくてみづらいし」
「契約? この間不動産屋さんで契約書書いたじゃない?」
「ああ、賃貸契約じゃなくて、プロバイダと契約するんだよ。そうしないとインターネットは使えないから……」
 藍璃ちゃんが眉間に深い皺を刻み始めた。分からないらしい。
「ええと、この家じゃインターネット、できないんだよ」
「あ、そうなの……」
 しょぼん、と眉根を降ろす。なんだか可哀想になってきた。
「あ、お茶薄いね」
「今言うかな、それ……」
 がっくりと落とした肩をさらに落とさせるのは、正直俺の趣味だ。落ち込んだ藍璃ちゃんを見るのは楽しい。可哀想だけど。