たぶん、世間一般では同棲と呼ぶんだろうが、俺と武川藍璃の間にはそういった言葉は不相応だ。同居とか、ルームシェアとか、そういう方がしっくりくる。ただ、女と同居している俺には彼女ができそうにないし、その逆も然りであると思う。まあ、それでもいいかと思えるのは、武川藍璃との生活がそれなりに気楽であるからだと思う。
 彼女、武川藍璃は18歳の自称音楽家。親元を離れて専門学校へ通うことになったはいいが、自分の進む道はここじゃないとある日思い立ったらしく、その日のうちに学校は退学、住居も解約して放浪していたらしい。放浪といっても、漫喫暮らしをしたり、カラオケで夜を明かしたり、いわゆるホームレス然とした暮らしをしていただけで、そう大層なものではない。そんな彼女がたどり着いたのは、ここの最寄り駅前にあるコンビニで、空腹のあまり倒れていたところを親切なオーナー老夫婦が助けてくれたらしい。そんな馬鹿なと思うが、実際そのコンビニは老夫婦が経営していて、藍璃ちゃんとも顔見知りなのだから少しは信憑性があるかもしれない。それで、そのコンビニでアルバイト店員として働いているうちにこの街に定住したくなり、不動産屋に紹介してもらったのが、俺と同じ部屋だったというわけだ。
 ちなみにそのコンビニで、もう藍璃ちゃんは働いていない。彼女の進む道ではなかったようだ。