この一週間で、とりあえずプロバイダと契約し、すぐにモデムも届いたので接続もでき、藍璃ちゃん待望のネット環境は整った。元々無線LANを組んでいたので、LAN環境もバッチリだ。とはいえ、藍璃ちゃんの携帯はほぼ電話機能しかないもので——ウェブやメール機能は契約していないらしい——彼女にとっては何が何だかの世界だろうけど。

「間中」
「あ、はい」
 昼休みに入ってすぐ、強面の先輩から声がかかった。苦手ではあるが、何故か俺とよくコミュニケーションをとってくれる。
「古いんだけど、ノートいる? おまえ、こないだ引っ越ししたっつってたから、金ないだろうし」
 彼の言うノートとは、ノートパソコンのことだ。自分用は持っているけど、あればあったで便利かな。日がな一日家にいるわけでもないけど、俺よりは暇な時間も多いはずだ。
「いいんですか? いただいても」
「ああ。どうせゴミ代もかかるし、タダで引き取るつもりなら俺んちまで取りにきてくれよ」
「うわ、助かります。本当、ありがとうございます」
「いやいや。恩と思ってくれんなら、今後返してくれればいいからさ」
 この人が言うと冗談に聞こえない。もしかしたら、本気で言ってるのかもしれないが。

 果たして家に来たノートパソコンは、真っ赤な形でちょっと俺の趣味ではなかった。そういえばあの先輩はロボオタクだったような気がする。歓迎会でそれらしいことを言っていたか。
「ただいまー。あれ、それどうしたの?」
 リビングに入るなり、藍璃ちゃんは真っ赤なノートパソコンに目を奪われていた。
「おかえり。会社の先輩がくれたんだよ。今日、取りに行ってきた」
「うそっ、そんな高価なモノをホイホイくれちゃう先輩がいるなんて、大翔くんの会社ってすごいのねえ」
 まあ、確かに。新品同様だし、去年出たばっかりのモデルだし、先輩の言う古いっていうのと、目の前のピカピカのノートパソコンがどうも結びつかない。何度確認しても「それだから」と言われてしまった。
「先輩、マニアだから。たぶん、今年出たモデル買ったから使ってないんじゃないかな」
「マニア」
 俺の言葉の一部分だけ、噛み砕くように復唱した。
「これ、藍璃ちゃん使っていいよ」
 じっと赤いノートパソコンを見つめていた藍璃ちゃんは、そのままの目を俺に向けてきた。
「いいの?」
「うん。基本的な使い方教えるし、そうだ、俺のアドレスも教えるから、何か用があったらメールしてよ」
「メール」
 また復唱してる。
「うん、頑張って覚えるよ! ありがとう、大翔くん」
 たぶん、頑張らなくてもすぐ覚えちゃうだろうなあ。無邪気な笑顔は、若い証拠だ。18歳の子を若いと言うくらい、俺は年食ったってことか。嫌な事に気付いてしまった。