「そうですね。別に上下逆でも構いませんが、東向きがベストですかね」
 歌舞伎沢兄は首を傾げながらそう返答した。
 「じゃあ、ベッドの向き変える?」
 未だに話が呑み込めていない小岩井に対して小池が尋ねたが、小岩井は先ほどの話を理解するのに苦しんでいる様なので、大橋が勝手にベッドの向きを変え、この話は一件落着した。らしい。

 何故、らしいというかと言えば……
 「小ちゃん、最近は良く眠れてる?」
 数日後の昼休みに小池が小岩井にそう尋ねる。
 「おかげさまで」
 少し不機嫌に小岩井は返事をした。
 「なんかあったの?」
 その反応に、今度は大橋に質問を投げかける。
 「今度は毎晩悪夢を見る様になったんだってさ」
 昼食のから揚げを食べつつ、大橋は答えた。それを聞いた小岩井は急に咽たのか、咳込む。
 大橋に背中を叩かれ、何とか呼吸をする小岩井は涙目になりながらこう語った。
 「あの日から毎晩夢に歌舞伎沢達が出るんだよ……毎晩、毎晩……」
 震える小岩井に対して、小池は首を捻り、手を打つ。
 「そういえば、小ちゃんの家から歌舞伎沢ちゃん達の家って丁度東向きだね」
 それを聞いた小岩井は無音の悲鳴をあげ、再び咳き込む。

 まあ、小岩井の事が特別な話だったとしても、お客様に対して北枕を出すのは失礼に当たるので、この事を覚えて置いて損はないのではないだろうか?