「「ガシャン!」」

 部屋に響く、ガラスの割れる音
お母さんがお父さんにすがりついて泣いている。
「アナタ・・・やめて・・・」
「うるせぇ!お前は黙ってろ!」
《自分》は壁のほうで耳を塞いだ。
「花梨には手を出さないで・・・」
「お父さんっ・・・やめてよ!」
「お前はいつもいつも・・・!!」
そういって、お父さんは《花梨》の髪を引っ張って立ち上がらせようとする。
「痛ッ」
視界の隅で、お母さんが携帯を持っていた。
「花梨を早く放して!じゃないと、いくらアナタでも
警察を呼ぶわよ!」
それに、お父さんが抗議する。《花梨》は髪の痛さで声が出ない。
「呼べるもんなら呼んでみろ!お前にそんな勇気はねぇだろ!」
お母さんは涙を流しながら、携帯を持って外に飛び出していった。
その後は何も見えなくて、《怖い》という感情だけが、
自分の中にずっと残っていた――――

・・・・・・というところで、いつも目が覚める。

ベッドの側に置いてある写真を取る。
そこには、6年前の幸せそうな自分の家族が映っていた。
「・・・もうやめよう。さっさと忘れないとね」

ウチ、滝川 花梨は「今日」から高校2年生になる。
成績は中の下。ぶっちゃけるとバカ。
とりあえずは、高校生なんだけど
地元じゃ、知らない人は居ないといわれるバカ学校、
「朝宮高等学校」に通っている。
「・・・泣きたくなってくるなぁ」
自分のバカさ加減に苦笑いしつつ、制服に腕を通す。
溜め息が4回目に達した頃、

 「花梨ー!お友達が来てるわよー!」

お母さんのよく通る声が聞こえた。
「今から行くよー。・・・ところで誰が来たー?」

 「僕~♪」

とか呑気な声が聞こえた。明らかに女なのに、自分のことを
『僕』と呼ぶのはあの子しか居ない。
「来なくてよかったのに!」
と内心キレながら、玄関に行くと
満面の笑みを浮かべた、小学校からの友達、樹紗が居た。
「へろ~♪あれ?ご機嫌ナナメなの~?花梨~?」
イライラしていたのが顔に出ていたらしい。
「・・・なんで朝からそんなにハイテンションなの?」
「ん?悪い?」
軽く返された。しかも疑問系で。
「いい加減に、コイツどうにかなんないかな・・・」
とかブツブツ言っていると、目の前がいきなり暗くなった。
「わっ!誰!?」
「だぁれだ?」
声と手の長さで察してみよう。・・・うん。あの子しか居ないな。
「答えてよ~」
「千歩だよね。あと、一瞬隠れただけの目隠しは、君しかできないよね?」
振り向きながら言う。
「・・・遠まわしにちっちゃいって言ったな?」
声の主、千歩は小さな身長を少しでも高くしようと背伸びしながら睨んでくる。