「…彼、ですか?」


「はっ?彼って?」


「それ、聖でしょ?」


「何でわかんの?」


「顔にやついてる。
遂に恋したの?」


「してないからっ」


「ふぅん。そう?」


「もう、尚子はっ」


すぐそっちに持っていきたがるんだから!
本当に!


まあ、でも。
聖と付き合ったら楽しいのかなって。

ほんのり思ったことがあるのは誰にも言えない秘密。
でもさっ。


……順二に好きだって言われたあの時から心に決めたんだ。


伊織を忘れる為に誰かを利用するのはやめようって。


だから、もしも聖とこの先付き合うことがあるのなら聖をきちんと好きになってから。
伊織を目の前にしても、聖が好きだと言えるぐらいになってから。



そこまでいくのが無理だから、私は誰とも付き合えない。


伊織を目の前にして。

他の誰かを好きだなんて。
私には言えない。


きっと。
会ったら。

伊織への気持ちが溢れだすから。