だから、私は伊織に何も言うことなく。
姿を消した。


まさか、伊織は私が社長を好きだなんて思わないだろう。

いや、正確には好きになってしまった、かな。


それから私はあんなに好きだった買い物を我慢してまでお金を貯めた。

康弘さんと暮らすために。


自分がこんなにも、ひたむきに誰かを想うことが出来るなんて。



ただ、それが嬉しいと思った。

康弘さんの出所してからの、あの言葉を聞くまでは。


長いようで、短かった。


康弘さんは今日出てくる。


いつもより気合い入れてコーディネートを決めて、メイクしてる自分に笑みが零れる。


ただの、片思いしている学生みたいだ。


でも、不思議とそんな自分も嫌いでない。

こんな自分も、好きなのだ。


疑似恋愛をしていた時より、余程自分らしいと思う。


そわそわ、ドキドキしながら私は今、まさに出てこようとしているその人を待った。


髭もなく、髪の毛も切り揃えられてて。
幾分、顔色もよさそうに見える。