レンタル彼氏 Ⅱ【完結】

母親を刺したあの日。


普通なら気が動転して、そのまま警察に捕まっていると思う。
普通じゃなかったのは、きっと母親を刺してしまって俺の中の何かの糸がぷつんと切れてしまったからだ。


母親に見向きもせず。
自分は巻き込まれまいと、一目散に逃げ去ったあの男を見て。


ただただ、憎いと思ってしまった所為だ。



あの日。


血まみれの手で、かけた相手は。


警察でも、救急車でもなくて。






―――――…美佳だった。




無表情で俺は呼び出し音をどこか、別の所で鳴っているかのように聞いた。

暫く鳴らせてから、聞きなれた声がした。



「はいはーい」


俺だとわかりきっているその声は、緊張感も何もない。



「………美佳?」


たくさんの息を含ませて、俺は美佳の名前を音にした。


「………何か、あったの?」


鋭いと思う。
ただ、それだけで。



だけど、そんなことも全てが有り難いと思ってしまう俺はあざとい。