「……知ってる?」

ぴたりと止まった、聖は私を静かに見下ろす。


「…伊織の父親ね、伊織の母親を殺したんだよ」


「!!!」


ほら。

私は何も知らない。


「それから俺の母親は狂っちゃって、事故で呆気なく死んじゃった」



ゴクリと生唾を飲み込む。


「うちはね、伊織の父親の所為でぐちゃぐちゃにされたの。
やっと突き止めた時には父親は檻の中。


誰に今までの怒りをぶつけたらいい?」



聖にも何か闇はある。
そう、簡単に思っていた。

だけど、こんなに深い傷だったなんて。


「なっ…何でお前が泣くんだよ!」


自然と私は涙を流していた。


分からないよ。
でも、今の聖は間違いなく被害者じゃないか。

理由もなく、こんなことする人じゃなかったんだ。



ふっと、手の力が緩まって私の腕が解放された。

「…………俺、好きな奴いたんだよ」



聖は私の上に跨がったまま、頭を抱えた。