「その、不倫相手が伊織の父親だったわけ」


「!!!」


「それを調べてる時、俺は普通に伊織とご飯食べたりしてたんだよ。
何も知らなかったからな。

知った時は、手が震えて、頭が真っ白になった。


憎むべき相手が、こんな身近にいただなんて!ってね」


高笑いしながら、聖は吐き捨てるように言った。

「…でも、伊織は何もしてないじゃない」


「黙れっ!」


空いていた手で口を塞がれる。
爪が頬に食い込んで痛い。


「……………そう、思ってたんだよ。
俺も」


急に聖が哀しげな瞳を見せた。


「…父親は愛想尽かして出ていくし、母親は不倫相手だけになって、俺をどんどん疎ましく思って来てたんだ」


「……………」


でも、聖…。

母親にたくさんの愛情をもらってたって。


「不倫相手は酒癖悪くて、酔うと暴れるし、金を奪うわ、母親を殴るわ…。
それを庇って俺も殴られてたよ」


私に触れている聖の手が震えていた。



ああ。

本当に。



私は何も知らない。




平凡な家庭で何不自由なく暮らしてきた私には。