覗き口

揺れる電車の中。
夜の七時。
通勤帰りのサラリーマンや女子高生や
寄り添う老夫婦が敷き詰められた満員電車の地べたに座る俊也。


すげぇなあ。これがあこがれてた大阪の街かあ。
ぶち(すごい)都会ぢゃん。俺も大阪弁になったりするんじゃろうか。

doloidはこの街でメジャーになったんよなぁ。
俺だって。



たぎる思いを抑えつつ
電車の窓に流れる夜の街の光を見つめながら
俊也は薄く笑みを浮かべていた。



次は近鉄山本。近鉄山本です。
アナウンスが流れる車内。
俊也はすっと立ち上がり
ドアの前に立った。
着いた…。


駅を出て
住宅街を何分か歩きポケットから鍵を取り出す。


目の前には新しくもなく古くもないような一つのマンション。

『new.road山本』


新しい道。ただそのマンション名が自分に合ってるから。
それだけで決めた自分の家。
マンションの階段を上り、俊也は三階の302号室の前に着いた。取り出していた鍵でドアを開けて

真っ暗な玄関に足を踏み出す。
その瞬間
何故かふわっと甘い花のような香りがした。



ん…?


前この家を見に来たとき
こんなにおいしたかな…?
てかこのにおい嗅いだことあるぞ?
確か…エンジェルハートの香水だ…


そんな事を考えながら
室内電気のスイッチを押した。