でも岡山から上京してきた割には
背中を覆うように大きなギターケースを抱えて
左手に大きな紙袋を一つ持ち
後ろポケットには通帳と財布を入れているだけの格好。

でもこれだけで十分だった。

高校を卒業してミュージシャンをめざしたい。高校の卒業式の3ヶ月前。俊也は両親に打ち明けた。
そういったとき
親父がテーブルの上にすっと出してきた通帳。


『お前は高三の終わりになっても
三者面談でミュージシャンになるって言って聞かなかった。求人募集が色々な所から来て同級生たちは必死になって進路を決めようとしてたのに
お前はギターを部屋でひたすら弾くだけだった。
いつか、お前のギターを俺がへし折ったこともあったな。
しかしお前は信念をかえなかった。
だから止めない。
思う存分やれ。ただ
易々と尻尾を巻いて帰ってくるな。わかったな。これは、その費用に使え。お前が小さい時から俺がためてきた金だ。』


通帳を開けると
そこにはずらっとゼロが並んだ欄があった。
ゼロが6個に一番左手に1の字
……百万…!?



それを見たとき
俊也は唇を噛み締めながらただ頷きぼそっとありがとうと言った。


あれから3ヶ月ちょっと。
絶対やってやる。



俊也は歩き出した。
向かい先は近鉄山本という小さな街。


不動産屋で借りた家がそこにあるからだ。