『待って!待ってや!俺はまだ君に会ってない!!まだ全部君に話し尽くしてない!!どんだけ話しても君はこんなに近くにいるのに、ホンマはこんなに遠い!!たった一枚のドアを挟んで向こうには君はいるのにいない!!でも好きになってもうた!!だから消えんといて!!お願いや!!』



小さな1LDKの部屋に響き渡る
俊也の叫び声。
それは薄いドア一枚を挟んで
向こう側にいる奈々に必死に問いかけていた。


ドアの向こうから聞こえる
微弱な弱々しい奈々の声が外からかすかに聞こえる。


『ごめんな。ホンマにごめんなさい。うちはシュンの気持ちに答えてあげることできんかったね。でも確かな事、一つ言えるで。』



玄関のドアの前に膝をつき、うなだれる俊也に彼女は問いかける。


俊也はただただ震え
潤んだ目からは涙が一筋流れ
玄関の冷たいコンクリートに粒となって落ちる。




『愛してた…シュン…』



耐えきれなくなったシュンはドアノブに手をかけ
思い切りドアを開く。



さっきまでドアの外からは奈々の声が聞こえていたというのに
奈々の姿はそこにない。


『お兄ちゃん、泣いてるの?』


隣に住む夫婦の子が偶然玄関前に立っていて
泣いている俊也の心配をしてきた。



『ん…うん。大丈夫やで。ありがとうな…


うん…ありがとう…。』



手で涙をこすれど
次々に目から流れるあついものは止まらず
ただひたすら悲しさを
洗い流すように…


その瞬間膝の力がガクッと抜け
崩れ落ちる俊也。



叶わない恋だって知ってた。
でも
でも
初めて好きになった君は


小さな覗き口からとても輝いて見えてたんだ。




一つのインターホンが



俺をこんなに恋に狂わせたんだ……。