女の人は慣れている感じで後ろに跨がり、そのあと暁が前に乗り、バイクのエンジンがかけられた。
暁の腰に女の人の腕が回っているのが目に入り……心臓を誰かに鷲掴みされているような感覚に襲われた。
そんなに近づかないで……。
女の人が現れてからというものの、私の心の中がなんだか忙しい。
カラオケであんなことがあったから、ちょっとおかしくなってるのかな。
「なんかあったら、また連絡しろ」
「……うん、わかった」
バイクのハンドルに手をかけた暁。
ついに走り出そうとしたそのとき……私は、最後に、エンジン音に負けないくらいの大きな声で「今日は本当にありがとう!」と暁に向かって叫んだ。
暁はフルフェイスのヘルメットを被っていたため、聞こえていないだろう……と思っていたら、長い腕が私に向かって伸びてきて、暁の手が私の髪の毛をくしゃくしゃにした。
そのあとすぐにバイクは走り出した。
暁に触れられたくしゃくしゃの髪を直せず……私は少しの時間、家の前で立ち尽くしていた。