「月の女神カナン…か。地球に渡って久しいと聞くが、まさかその魂がここへ戻ってきたとは。だが、思い当る節がないでもない。ここ最近、ファントムどもの動きが穏やかになった。……まるで何かの安らぎを得たような静けさだ」

「…父さん。何かわかりませんか?カナンがどこに封印されたのか」

セイジュのお父さんは何か考えを巡らすように瞳を泳がせたあと、セイジュに向き直った。

「…“闇の天使”を知っているか?セイジュ」

「闇の天使?」

セイジュが問い返す。

ガシャーン!!

その瞬間、椅子に座って出された飲み物を飲んでいたいずみさんが、カップを床に落とし呆然とした瞳で固まった。

「…いずみさん!?どうしたの?大丈夫!?」

「…闇の…天使……」

いずみさんの小さな肩が震えている。

わたしが彼女の肩を抑えると、いずみさんはわたしに抱きついてきた。

「どうやら彼女は“闇の天使”のコードネームを持った男を知っているらしい」

セイジュのお父さんは、割れたカップを片づけながら話し続けた。

「闇の天使は月の女神カナンを護るために古代神によって生み出された“本物”の闘いの天使だ。彼がカナンを護るためにその命を散らしたのが40年以上前だと聞いている。彼はカナンのガードである天使たちの間でもその存在は知られていなかった。闇の存在として生きていた。だが、先日、彼の姿をこのミラージュムーンで見かけた者が……いる」