集落にはざっと見て20軒ほどの石造りの家が散らばっていた。

辺りは静寂そのもので、人の気配も物音すらも聴こえない。

「…セイジュ、みんな寝ているのかな?いったい今こっちでは何時なの?さっきからずっと暗いけど…」

歩きながら問いかけると、セイジュは涼しい顔で応えた。

「静かだけど寝ているわけじゃない。今は地球で言うと昼間に当たる時間だ。このミラージュムーンは太陽の光の届かない世界だからね。1日中夜なんだ」

「1日中!?」

集落から空を見上げるとたくさんの星が瞬く中に、一際大きな満月が輝いていた。

……そうか、この星は1日中、月が消えることはないんだ。

彼らは一生を月とともに生きる。

月は、彼らにとっては太陽の存在に近いのかもしれない、とふと思った。

「美月!!危ない!!」

向かい合っていたセイジュが突然わたしの腕を引っ張り胸に引き寄せる。

そのままわたしを抱えて彼はダイブするように草の上に転がった。

わたしを下にしてやっと止まったと思った瞬間、わたしの顔のすぐ横の草むらに剣が突き刺さった。

「…きゃあ!」

悲鳴をあげると同時に、闇の中から這い上がってくるような声。

「…何者だ?お前たちは…」

闇の中に浮かび上がる一人の人影。

セイジュはわたしを起こしながら自分も立ち上がると、闇の中の人物に向かって言った。

「…セイジュです。………父さん」