本当に信じられないことの連続だった。

ここに来たいと願ったのはわたしだけど、まさかほんの数分前まで地球にいたわたしが今は月の隣のミラージュムーンにいるなんて。

しかも子供の姿のいずみさんと、“本当の姿”のセイジュと。

「で、カナンのエナジーは感じるか?」

セイジュは白い包帯のような布で自分の長髪を首の後ろで一つに結びながら言う。

いずみさんは目を瞑って空を見上げながら答えた。

「微かに。女神カナンは確かにこの地にいる。方角はこの方向で間違いないけれど、封印によってその場所の特定は難しいわ」

「…そうか。ファントムは彼女をどこかに封印したらしい。だがこの方角に行けば“月の一族”の棲みかがある。そこで何かわかるかもしれない」

月の一族の棲みかと聞いて胸が高鳴った。

わたしやママ、そしてパパの故郷であり、わたしたちと同じ一族。

彼らに会えるんだ。

そしてもしかしたらわたしが一体誰なのかわかるかもしれない――――!

そこでハタと不安になって訊ねた。

「ね、ねぇ。どうでもいいけどこの草原…いつまで続くの?」

セイジュは大きな月をバックに懐かしげに瞳を細めて微笑んだ。

「蒼幻はどこまでも果てしなく続いているように見えるけど、目の錯覚なんだ。もうすぐ月見草の丘が見えてくるはずだ。そのすぐ下に、月の一族の集落がある。……オレは10年振りだけどね」

……セイジュ?

セイジュの瞳が寂しげに見えたのが、なぜか気にかかった。