2階建てのレンガ造りの一軒家。

数年前に新築して家族3人で越してきた。

3人で住むには充分すぎるほど、大きな家。

「ただいま」

玄関でスリッパに履き替えていると、ママがリビングからひょっこり顔を出した。

「美月、おかえり。今日、遅刻しなかった?」

心配そうに見つめるママ。

「大丈夫。拓ちゃんのチャリに乗せてもらったから」

「また拓くんのお世話になったのね。まあ、いいわ。ご飯にしましょ」

「ママ、今日もパパ遅いの?」

「パパは今日も急患が入ったんだって。美月に会いたいって言ってたわよ」

ママはそう言って冗談っぽく笑うと、エプロン姿でキッチンに入って行く。

「パパ、しばらく会ってないや」

パパは医者だ。

たくさんの患者さんを抱える外科医。

急患なんてしょっちゅうで、たまの休みも返上することもあるくらい忙しい。

自慢のパパだけど、会えないのは寂しい……。

ちょっと寂しさを抱えながら、私は着替えようと階段を上りかけた。

その時だった。

ガシャーン!!

耳をつんざくような皿の割れる音が聞こえ、私は慌ててキッチンへ走りこんだ。

「ママ!?」

キッチンへ入ってまず目に入ったのが、無残に割れた皿の破片。

そして……ママの床に倒れこんだ姿。

スリッパで破片を踏むパリパリとした音を鳴らしながら私はママに駆け寄る。

「ママ、どうしたの!?」

抱き起こすと、ママは瞳をうっすらと開け、震える唇で吐息まじりの声を出した。

「み……づき。大丈夫よ。ちょっとめまいがしただけ」