赤い茎のような刺々しい糸が、沙希の体中にはりめぐらされていた。

な……に……!?

沙希は死を覚悟したような暗い顔つきで、腕にまとわりつく糸に踊らされるように、持っているガラスの破片を首へと徐々に近づける。

「…沙希!!やめて――――!!」

「…想いだした?リアナ。君が、恋を禁じられていたことを」

館内に突如響き渡った声に、わたしはハッとして耳を澄ませた。

どこから…?

いったいどこから聴こえるの…!?

人形のように動かなくなった沙希の後ろのミラーに、いつか教室ですれ違ったレンの姿が映っていた。

「……レ…ン…?」

沙希にまとわりつく赤い茎をその手で操りながら、彼はかわいらしい笑みを浮かべた。

「そうだよ、リアナ。君がなかなか禁忌を想いださないで「恋」をしようとするから、君の友達を利用させてもらったんだ」

「利用……って、なんてひどいこと…!」

ふっくらとした笑みを浮かべ、レンは楽しげに微笑む。

「覚えておいて、リアナ。君は、特定の人間に恋をすることができないくらい神聖な存在なんだ」

その瞬間、レンはふっと赤い茎を離すと、ミラーの奥へと光のように姿を消した。

意識を失いわたしに倒れかかってきた沙希を抱きとめながら、甘い花の香りをかすかに嗅いだ。