部屋の中はオレンジ色のランプで温かく優しい雰囲気を漂わせていた。

最後に来た何年か前と変わらない部屋。

その人は部屋の真ん中の丸い木のテーブルの前に座り、余裕を感じさせるような笑みで微笑んでいた。

月野いずみ。

彼女は傍らに香織さんを立たせると、私たちをいずみさんの向かえの椅子に座らせた。

漆黒のように黒く長い髪。

黒く深い闇を思わせるような瞳。

40代にしては若く見えるその雪のように白い肌。

月野いずみはその胸に金色に輝く三日月のペンダントをさげ、私に向かって微笑んだ。

「美月。久しぶりね。私はあなたが自分からまたここへやってくるとわかっていたわ。月が、カナンの魂があなたをここへ呼んでいる」

「ママ…が…?」

いずみさんはセイジュに向き直ると、不敵な笑みを見せ、その赤いルージュの入った唇を開いた。

「あなたは、何世紀も前から重い禁忌を背負っている。…不思議ね、美月も同じ頃からずっと禁忌を背負ってきた。あなたたちにその記憶はないようだけれど……」

禁忌………?

横にいるセイジュを見ると、彼は少し動揺したように視線を宙に舞わせた。

「……セイジュ…?」

セイジュは意を決したように目を細めると、いずみさんを真っ直ぐに見据えて言った。

「月野いずみ。あなたも相当な使命を背負っているようだが。…この美月とともに、もう一度、月の女神カナンを護る意志はあるか?」

いずみさんは、瞬きもせずセイジュをじっと見つめると、運命の瞬間を待っていたかのように微笑んだ。

「私も香織も、カナンのために生かされている。私たちの命にそれ以上の意味なんてないわ。護ることは意志じゃない。その命の全てにおいて優先される使命よ」