「セイジュ…今の一体、何?」

セイジュは私の肩を押して離すと、保健室のドアの窓から廊下を見やった。

「行ったらしい」

「行ったって、何が?」

思わず聞き返して少し前に保健室の外から漂ってきた花の香りがなくなっていることに気づいた。

「レンだよ」

「レン?」

「冷酷なまでに月の掟を破る者を排除しようとする月の番人だ」

月の番人…。

とっさに思い浮かんだ天使の笑顔と冷酷という言葉のギャップに首を振る。

まさか、あの男の子が…!

「レンってまさか…花の香りを漂わせたかわいい笑顔の男の人?」

セイジュは一瞬驚いたような表情を見せて「会ったのか!?」と声をもらすように言い放った。

「うん。今朝教室の前ですれ違ったの。私を…リアナ、と呼んだ」

「…そうか」

そう言って私から視線をはずし考え込むような表情で保健室の一点を見つめるセイジュ。

「リアナ。月の者たちは君に引き寄せられているようだな」

「私に?」

「君は、一度封印されて今ここに甦った。封印されるほどの君の強大な力に月の者は恋焦がれている」

「恋…?」

「だが、レンは…」

そう言って押し黙ったセイジュを保健室の窓から差し込む夕暮れの日を背中に浴びながら、私はただじっと見つめ続けた。