拓ちゃんのおかげで遅刻しないで済んだ私はほっとしながら教室の戸に手をかける。

「ぶっ!」

開けたと同時に目の前に現れた胸板にぶつかって思わず変な声を出した。

「ごめんね、大丈夫?」

聞きなれない声に顔を上げると、ニコニコと天使のような笑顔で微笑む少年が私を見下ろしていた。

こんな人いたっけ?

茶色のちょっとクセのある髪に、大きな瞳を瞬かせているその少年は、白くて柔らかそうな頬をクイっと上げてにっこりと微笑んでいた。

あまりにも惹き付けられるそのかわいらしい笑顔に私が動きを止めて魅入っていると、少年はガラッと戸を開けて私を中へ通すしぐさをした。

「あ、ありがとう」

私はちらっと少年の顔を見て、教室の中へ足を一歩踏み入れる。

少年の横を通り過ぎようとしたその時。

「リアナ、君の復活を待っていたよ」

「!?」

振り返るとそこにいたはずの少年の姿はどこにもなく。

教室の外に出て廊下中を見渡しても、後姿一つ見つけることができなかった。

まさか、あの人も……!?

私の脳裏に昨夜の蒼の瞳のセイジュの姿が浮かぶ。

教室に戻ろうとした私は、何かほんのりと甘い香りを吸い込んで立ち止まる。

彼のいた場所に花のような甘い香りがたちこめていた。

この香り、どこかで嗅いだことがある。

天使のような笑顔と甘い香りがあまりにもぴったりで、なぜか私はこの香りの主を彼だと確信した。

彼も――私を「リアナ」と呼んだ。

また、何かが起こる。

そんな予感を感じながら。

彼の甘い香りに懐かしさにも似た感情を抱いていた。