拓ちゃん……。

昨日倒れた私を心配して来てくれたんだ。

「昨日はごめんね。ちょっと貧血だったの。でももう大丈夫だから。パパに連絡してくれてありがと」

「そっか。人騒がせだけど、ま、お前らしいな。とにかく急ぐぞ。乗れ!」

拓ちゃんが玄関の門の前に置いてある自転車を指差す。

そうだった、遅刻しそうだったんだ。

すごいスピードで自転車を漕ぐ拓ちゃんの後ろで私は昨日の出来事を思い起こす。

なんだかこうしていつもどおりの朝を迎えると、全てが夢だったんじゃないかって思えてくる。

「お前の人騒がせに巻き込まれるのも、悪くはないよ」

拓ちゃんの声が、風を切る音に少しかき消されながら響いてきた。

ありがとう、拓ちゃん。

拓ちゃんの温かい背中に頬を押し付けながら、少しだけ泣いた私は、温かい春の風に頬を乾かすようにその身を委ねた。

その後はただ無言だったけど。

わだかまっていた拓ちゃんとの距離が少し縮んだ気がしながら、私は拓ちゃんの後ろで、春の風を感じていた。