頭がぐるぐる回る感覚に酔いそうになるのを私は必死でこらえていた。

こんなこと、とても信じられなくて。

――頭がおかしくなりそうだ!!

「なぜ……私がファントムに崇められるの?」

「月世界には二人目の女神は不吉とされる言い伝えがある。奴らはその力が月を我が物にするのに有効だと考えているんだろう。だが、オレが怖れているのはそんなことじゃない」

「なに……?」

男はカッと蒼の瞳を見開くと、私の瞳を刃のように射抜いた。

「お前には、魂が二つ存在するんだ!」

二つ……!?

二つ存在するということが何を意味するのかは私にはわからない。

でも、足がガタガタと震えだすのを止められなかった。

気がつくと私はその場にへなへなと座り込んでいた。

「古代神を奪われた我々には、お前の母、月の女神であるカナンの力が必要だ。彼女は今、ミラージュムーンにいる」

ママが!?

「だが、彼女の女神としての力は確実に衰え始めている。だから、お前の力を見極めたいのさ。奴らに奪われる前にな」

男は窓を開けると、夜風を吸い込むように空を見上げた。

昼間のように男の体が蒼の光に包まれ始める。

「待って!!あなたは!?」

男は窓に片足をかけながら振り向いた。

氷のように冷たい蒼の瞳が私の心を射抜く。

「セイジュだ」

直後、部屋の中に吹き込んできた強い風にカーテンがフワリと巻き上がった。

ファサっとカーテンが落ちたその時、私の目の前には幻のようにぼんやりと輝く月だけがその姿を残していた。

セイジュ……。

私はしばらく立ち上がることもできずに。

セイジュ、その名だけが私の頭の中をリフレインし続けていた。