その切っ先が瑞樹に当たった。

…そのはずだった。

だけど闇の天使が振りかざした剣は、何もない空を切っただけだった。

「…な…んで…?」

石のベッドの傍にいたはずの瑞樹は、後かたもなく姿を消していた。

闇の天使の傍には、ベッドに横たわっているママがいるだけ。

闇の天使は空しく空を切った剣を降ろすと、ゆっくりとこちらを振り向いた。

その瞳は、さきほどの鋭さを失っていた。

まるで嵐のあとの凪いだ海のように。

「あれはファントムが見せた幻影だ。彼は、別の場所にいる」

……幻影……?

あれが…瑞樹は幻影だったというの?

「だが、あの姿は本物だ。彼はどこかから月の女神カナンを見守っている」

……瑞樹が………!

闇の天使はそこで初めていずみさんと目を合わせた。

「…いずみ」

「……紫…貴」

いずみさんは震える声でそれだけ言うのが精いっぱいだったのだろう。

彼女はただ、彼の次の言葉を待っていた。

「オレは幻じゃない。ここにいる」

噛みしめるように喉の奥から発された言葉に、いずみさんは顔をくしゃくしゃにして叫んだ。

「……紫……貴……!!」