記憶の片隅に





『ごめんなさい…』




部屋を出た瞬間、ママさんは俺に頭を下げた。




『そんな、やめてくださいよ』




『こんなに、良くしてもらってたのに…あなたのコト忘れちゃったなんて……ホントに申し訳ないわ』





ママさんが悪い訳じゃない。



というか、誰も悪くない。




これは、神様が俺たちに与えた試練で…


きっと、二人で乗り越えなきゃいけないんだ。




『…俺は信じます。里衣はきっと思い出してくれるって。

今は、それを待つだけです』




『…そうね。私も…あの子を信じるわ』




ママさんの背中は昨日よりも小さく見えた。




余裕なんかなくて

俺はもう一度、里衣の病室に向かった。




里衣は大きな瞳で俺を見つめた。



『…あの』




『ん…?どした?』




『あたしたちは…付き合ってるの?』





『里衣は…俺の記憶を消されてる。
覚えてないかもしれないけど、そういうコト』





『いつから…?』





『中二の時からだよ』




里衣との思い出を里衣に話す俺は自分でも切ないと思った。




恋人に記憶を消された俺…


涙をぐっとこらえた。