記憶の片隅に





『…彼氏…?』




里衣はさらに目を丸くした。





『俺のコト…分かんないの?』



里衣は何も答えない。




ママさんはすぐに先生を呼びに行った。




嘘だろ…



覚えてないなんて…。




俺のコトだけ分かんないのか?



何でだよ。




二人の帰り道も…



笑いあったコトも…



デートしたコトも…



覚えてないのかよ…




先生が再び病室にやってきた。




俺とママさんは別室に通された。



『記憶障害ですね』





『どうして…俺のコトだけ…?』



『里衣さんの中で一番大きなコトや大切なコトが失われているんでしょう…

そういったパターンは多く報告されています。

きっと、あなたが里衣さんの中で大きな存在だったのでしょう』





『記憶…そのうち戻りますよね?』





『何とも言えません。戻った例もありますが、戻らなかった例も報告されています。


ただ、今は無理に思い出させるのも無効かと思われます。


焦らず、ゆっくりと思い出してもらうことがベストです』





医者の言葉がやけに遠くに聞こえる。



何で俺だけなんだよ…。




何で俺を忘れんだよ。




気持ちが込み上げてくる。



俺は唇を噛んで、グッとこらえた。