記憶の片隅に





『里衣さ…』




凌央が呟くような、か細い声で言った。




『事故にあう前“また明日ね”って言ったんだ。

俺達は、明日会えるのが当たり前だと思ってた。

次の日の朝は、里衣が“おはよ”って言ってくれる。


けど、俺達に明日は来なかった。

里衣が“おはよ”とは言ってくれなかった。



ずっと信じてた。

いつか、約束した明日はちゃんと来るって。


けど…

里衣がどんどん暗くなっていく気がしてさ。

俺は、里衣に自分を責めてほしくない。

里衣は何も悪くないんだ』





凌央の声が震える。




分かるよ

言おうとしてるコトは。






『俺のコトを忘れたなら、それが俺達の終わりなんだ。

里衣は全部リセットされた。

新しい道を選べってコトなんだよ、きっと。


二人の明日はもう来ない。


気なんかつかわなくていい。


俺も忘れる。


だから、里衣は戻って。

明るくて、元気で、いつも笑ってた里衣に。


俺が好きだったのは、そんな里衣だから』





凌央の瞳がまっすぐにあたしをとらえた。





涙が流れた。





『…ごめん、なさい』





凌央はあたしの頭をぽんぽん撫でた。



“気にするな”



って言ってるみたいで、胸が傷んだ。