『実はね… 梨花子に話聞いたの。

凌央がどんな人なのかって…

いいやつだって言ってた』





『俺のコト、聞いたの??』





『うん。
すごく、すごく大切だったんだと思う。

でも、今はその気持ちを全部忘れてる。


ごめんなさい… あたし、やっぱり思い出せない…』






『いいよ。里衣が忘れたなら、俺が覚えてればいい。

二人の想い出は俺の中には残ってる。

ちゃんと、あるから』






『でも!あたしは…何も分からない。


混乱するだけで……

変に罪悪感も感じちゃう。


だから、今は…

あたしに構わないでいてほしいの…。


凌央のコトは、もっと落ち着いたら考えたい。



だから、今は…』







『分かった。

お見舞いも来てほしくないんだろ??』





里衣が何も言わないのは、肯定を意味してるコトくらい分かった。



俺は一生懸命笑顔を作った。





『俺は、大丈夫。

もし、何かあったら連絡しろよ。

ぢゃぁな』





里衣は、俺が出ていくまでずっと下を向いていた。




しょうがない…




里衣は俺を覚えてないんだから。



そう言い聞かせながら、帰り道を歩いた。




それでも、無性にムシャクシャして道沿いのフェンスを蹴飛ばした。





『くっそ……』





俺はそこに、座り込むように崩れた。




何度も、自分の拳を地面に叩きつけた。




それでも、気持ちは落ち着かなかった。




俺にとって、里衣はそんなに大きな存在だったんだ。