里衣はいい感じのタイミングで駆け出した。
スピードに乗ってて、けっこう速い。
というか、一番速い。
里衣のクラスの女子は“里衣、かっこいーい”とか、“里衣、がんばれー”とか言って興奮してる。
里衣は1位のまま、次の走者にバトンを渡した。
肩を上下させながら、自分のクラスの方に笑顔で手をふる。
やっぱり、里衣は明るい。
だからこそ、一人で抱えてる物が大きいんだと思う。
それを表に出してはいけない、と自分の弱さも脆さも隠してる。
俺は、そんな里衣を救いたいとかいうかっこいいものじゃない。
ただ、素直に近くにいたいと思う。
里衣が泣くときはそばにいたい。
里衣が笑うときは一緒に笑いたい。
そうやって、少しずつでも里衣を分かりたいと思った。
里衣を見てたら、視線が重なった。
里衣は口角をあげて、笑った。
目はそらせなくて、俺は親指を里衣に向けて立てた。
“おつかれ”
そう口パクで言うと、里衣は
“ありがと”
と口を動かした。

